東京オリンピック2021の行方

 2013年、2020年オリンピック・パラリンピック開催地が東京に決定。安倍総理が大きく喜ぶ発表の瞬間を見た覚えのある人は多いのではないだろうか。そう、あのニュースが日本を盛り上げたのは、もう8年も昔のことなのだ。私はまだ子供で、「絶対東京に見に行く!そのころには大人だ!」なんて考えたりもしていた。しかし、2021年現在は、当時私が予想していた未来とは大きく異なっている。

 2019年12月、中国・武漢新型コロナウイルスが確認される。翌年の1月15日に、国内で最初の感染者が確認される。2月には、日本人1341人を含む3711人を乗せたダイヤモンドプリンセス号内で集団感染が発生。そして、2020年3月2日、全国の小・中・高校へ休校要請。4月7日、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言発令。同月16日、緊急事態宣言の対象が全国へ。日本全土で「ステイホーム」「外出自粛」「3密を避ける」。今では当たり前のマスク・消毒生活。これがいつから始まったのか、今日までどんな生活をしてきたのか、始まる前はどんな生活をしていたのか、あの子の顔はどんなだったか…私には、忘れてしまって仕方ないと言えるほどの時間が経ってしまったように感じられる。

 本題に入ろう。コロナ禍のオリンピック開催が国民の間で物議を醸している。コロナの感染防止のために、運動会、入学式、修学旅行、文化祭等様々な学校行事が中止になり、子どもたちだけでなく、その保護者達からも不満がこぼれている。「それなのにオリンピックはやるんですか。」と。タイムリーな話題で言えば、毎年茨城県で行われる「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」通称「ロッキン」が、今年、開催を目前に控え中止となった。これを受けて、RADWIMPS野田洋次郎さんがツイートした内容が大きな話題を呼んだ。

 私たちは決してオリンピックが嫌いなわけでも、選手に恨みがあるわけでもない。ただ、自分たちの生活が制限されているのは、自分たちの命を守るためのものであって、オリンピックのためではない。私たちはオリンピック開催のためにひどく我慢したのではない。そういう思いが溢れ、今まさに零れ落ちているのだろう。なんにせよ、これほどまでに歓迎されないオリンピックは今までで初めてのことだろうから、レガシー云々、インパクト云々以前の問題ではないだろうか。開催国の国民が、オリンピックについて良い感情を抱いていないのに、その心にはどんな「遺産」が残るというのだろうか。1964年の東京大会について言えば、戦後の高度経済成長によってさまざまなインフラ整備が進み、オリンピックを開催し成功させたことが国民を勇気付け、まさに物心両面のレガシーにあふれた大会だったと言えるだろう。では今回、2021年の東京大会ではどんなレガシーが残るのだろうか。前回ほどのものは期待できないだろうと私は見切りをつけているが、レガシーが少しでもあるなら良い方だろう。ただ国民に不満を抱かせ、五輪選手に気まずい思いをさせ、感染者を増やしただけの「負のレガシー」あふれる大会にだけはしてくれるなよと、願うばかりである。